【アスリートの血液検査】定期的に検査を行いコンディションを把握せよ

・調子がいまいちですが、原因を知りたいです。
・今の状態を把握しておきたい!
・血液検査でどのようなことが分かりますか?

この記事を読むことによって、血液検査の見方が分かり、現在の状態を把握することができて、マラソンのタイムを伸ばすヒントが見つかります。

私はドクターランナーの立場として、トレーニング内容だけでなく、定期的に血液検査をおこなって研究してきました。
自分自身を実験台にした結果、トレーニング内容や食事・休養の具合が「血液検査の数値」に反映され、「走りの調子」とも関係することを実感しました。

アスリートは、定期的に血液検査を受けて、ご自身の状態を客観的に把握することが非常に大切です。

調子が悪い人は、血液検査を受けることによって、原因がわかるかもしれません。
また、調子が良い人は、今の状態を血液検査として記録しておくことで、今後調子が悪くなったときに目指すべき指標として重要になります。

では、血液検査をすることで、どのようなことがわかるのだろう?

ということで、今回は「アスリートの血液検査」について説明していきます。

貧血の評価

血液検査によって「貧血」を評価することができます。

ヘモグロビン(Hb)

一般的基準値:男性13.5~17.0、女性11.5~15.0(g/dl)
アスリートとして望ましくない値:男性<15.0、女性<13.0

ヘモグロビン(Hb)は、「赤血球」の赤い色素の成分であり、全身に酸素を運ぶ働きがあります。

ヘモグロビンが低下すると「貧血」の状態となり、全身へ酸素を運搬する働きが低下し、ランニングのパフォーマンスが低下していまいます。

血清鉄

一般的基準値:50~200(ug/dl)
アスリートとして望ましくない値: <70

「血清鉄」は血液中の鉄分の量であり、酸素を運搬する働きのある「ヘモグロビン」の材料となる成分です。
血清鉄は、血液の中でトランスフェリンと結合しているものであり、体全体の鉄の量ではありません。
ヘモグロビンの材料である「鉄」が不足すると鉄欠乏性貧血につながります。

フェリチン

一般的基準値:男性20~270、女性5~150(ng/ml)
アスリートとして望ましくない値:男性<50、女性<30

フェリチンは、貯蔵鉄であり、体内に存在する「約1/3」に相当します。
鉄欠乏性貧血になるときには、ヘモグロビンや血清鉄よりも先に「フェリチン」が低下します。
フェリチンが低下すると最大酸素摂取量が低くなり、有酸素能力が低下します。

ハプトグロビン

一般的基準値:型によって異なる ※30以下で型判定不能となる
(1-1型 43~180)、(2-1型 38~179)、(2-2型 15~116)、(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: <30~50

ハプトグロビンは、肝臓で作られるタンパク質であり、「タンパク質合成能」や「溶血」の指標になります。
ランニングによる足裏への衝撃などによって溶血が起こると、ハプトグロビンが消費されて低下します。

網状赤血球(Ret)

一般的基準値:5‰~19‰
アスリートとして望ましくない値: <10‰

「網状赤血球(Ret)」は、赤血球になる前の状態であり、骨髄で赤血球を作る能力を反映します。

鉄欠乏性貧血の治療で、鉄剤を使用するとすぐに「網状赤血球」は増加するため、治療効果の判定に用いられます。
なお、鉄剤を使用しても「網状赤血球」が増加しない場合には、エネルギー不足や造血障害の疾患が疑われます。

TIBC

一般的基準値:187~356(ug/dl)
アスリートとして望ましくない値: >360

TIBC(総鉄結合能)は、トランスフェリン濃度を表し、鉄不足の指標になります。

鉄が不足すると、トランスフェリン合成が上昇しTIBCが高値に、貯蔵鉄のフェリチンは低下します。
ほぼフェリチンと同じですが、炎症などでフェリチンで評価できない場合に使われます。

TSAT

一般的基準値:20~30%
アスリートとして望ましくない値: <20%

TSAT(トランスフェリン飽和度)は、「血清鉄(Fe)/総鉄結合能(TIBC)×100(%)」の式で計算されて、造血の指標になります。
成長期やアスリートの場合、筋肉量が増えて、筋肉中のミオグロビンに鉄が取り込まれてTSATが低下することがあります。

トランスフェリン

一般的基準値:190~270 mg/dl
アスリートとして望ましくない値:<190(タンパク質不足) >270(鉄欠乏)

トランスフェリンは、肝臓で合成されるタンパク質であり、血液中の鉄を運ぶ働きをしています。
鉄が欠乏すると、トランスフェリンは増加します。
また、肝機能が低下し合成するタンパク質が少なくなると、トランスフェリンは低下します。

エリスロポエチン

一般的基準値:4.2~23.7 mIU/ml
アスリートとして望ましくない値:<5

エリスロポエチンは、腎臓で合成されるタンパク質であり、赤血球の産生を促します。

腎臓の機能が低下し、エリスロポエチンが低下すると、「腎性貧血」につながります。
なお、エリスロポエチン製剤は、赤血球を増やし、運動機能が向上するため、ドーピングで禁止されています。

亜鉛(Zn)

一般的基準値:80~130(ug/dl)
アスリートとして望ましくない値: 朝<80、夕<60 ※朝は高く、夕方は低くなる

亜鉛(Zn)は、体に必要な微量元素の一つであり、たんぱく質の合成、DNA合成に必要な成分です。

亜鉛不足によって「貧血」につながりますし、全身倦怠感、食欲不振、味覚障害、皮膚炎、生殖機能の低下、脱毛など様々な症状が現れます。

タンパク質の代謝

血液検査によって「タンパク質の代謝」を評価することができます。

TP(総蛋白)

一般的基準値:6.7~8.3(g/dl)
アスリートとして望ましくない値: <7.0

TP(総蛋白)は、血液中に存在する100種類以上のタンパク質の合計を表し、栄養状態やエネルギー不足の指標になります。
糖質や脂質などのエネルギー源が不足すると、タンパク質もエネルギー源として使用されてしまい、総蛋白が低下します。
また、筋肉の合成などによってタンパク質が消費されると、一時的に低下することもあります。

アルブミン(Alb)

一般的基準値:3.8~5.2(g/dl)
アスリートとして望ましくない値: <4.5

アルブミン(Alb)は、血液中の総蛋白の「約6割」と、多くを占めているタンパク質です。
総蛋白とともに、アルブミンも、栄養状態やエネルギー不足の指標になります。

ChE(コリンエステラーゼ)

一般的基準値:200~500(IU/L)
アスリートとして望ましくない値: <300

コリンエステラーゼ(ChE)は、肝臓のみで作られる酵素であり、肝臓でタンパクを合成する能力を反映します。
アスリートでは「TP(総蛋白)」と併せて、栄養状態やエネルギー不足の指標になります。

尿素窒素

一般的基準値:8~20(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >20

尿素窒素(BUN)は、タンパク質がエネルギー源として使われた時に発生し、腎臓で尿中に排泄されます。
通常は、腎臓の機能を測る指標となります。
しかし、アスリートの場合は、タンパク質の取り過ぎ、糖質や脂質などのエネルギー不足、脱水、筋疲労などで値は上昇します。

脂質の代謝

血液検査によって「脂質の代謝」を評価することができます。

総コレステロール

一般的基準値:130~220(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >200、<140

総コレステロールは、肝臓で合成される脂質を示しており、エネルギー状態を反映します。
総蛋白が低いにも関わらず、総コレステロールが高い場合には、エネルギー不足の状態のため脂質を貯めこもうとしている状態です。脂肪肝になっているケースもあります。
また、総コレステロールが低い場合もエネルギー不足をあらわしています。

HDLコレステロール

一般的基準値:40~100(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: <50

HDLコレステロールは、「善玉コレステロール」であり、血液中の余分なコレステロールを肝臓に運ぶ働きがあり、動脈硬化をおさえてくれるのです。
栄養バランスの良い食事(とくに良質な脂質)、十分な睡眠、休養、運動などの良好な生活習慣が反映されます。

中性脂肪(トリグリセリド)

一般的基準値:30~149(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: <50

中性脂肪(トリグリセリド)は、血液中に存在する脂質の一種であり、栄養状態の指標になります。

高い場合には、血液検査の前日・当日の食事内容を反映した一時的な増加のことが多いです。
反対に低すぎる場合には、エネルギー摂取不足の可能性があります。

糖質の代謝

血液検査によって「糖質の代謝」を評価することができます。

血糖値

一般的基準値:空腹時<100、食後2時間<140(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >126 (空腹時)

血糖値は食事のタイミングによって正常値が異なります。
空腹時血糖値が、100~109mg/dLの場合は正常高値、110~125mg/dLの場合は境界型、126mg/dL以上は糖尿病型となります。
アスリートの場合でも、とくに糖質の摂取量を多くするときに、糖尿病になるケースもあるため注意が必要です。

HbA1c

一般的基準値:4.6~6.2%
アスリートとして望ましくない値: >6.0

HbA1c(ヘモグロビンA1c)とは、過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を示す指標です。
アスリートでも糖尿病が隠れている場合があるため、注意が必要です。

尿素窒素

一般的基準値:8~20(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >20

尿素窒素(BUN)は、タンパク質がエネルギー源として使われた時に発生し、腎臓で尿中に排泄されます。
糖質や脂質などエネルギー不足で上昇するため、糖質不足の指標にもなります。

肝臓や腎臓の機能

血液検査によって「肝臓」や「腎臓」の機能を評価することができます。

AST

一般的基準値:8~38(U/L)
アスリートとして望ましくない値: >35

AST(GOT)は、肝臓・赤血球・骨格筋・心臓の筋肉などに存在している酵素の成分です。
通常は「肝機能の指標」ですが、ランナーの場合は「筋肉のダメージ」や「溶血」(とくにAST>ALTの場合)の指標になります。

ALT

一般的基準値:4~44(U/L)
アスリートとして望ましくない値: >40

ALT(GPT)は、大部分が肝臓に含まれている酵素であり、「肝機能の指標」になります。
ASTとあわせて、「肝機能」や「溶血」「筋肉のダメージ」などを評価することができます。
なお、栄養不良が改善するときにはALTが上昇します。

γGTP

一般的基準値:<80 (U/L)
アスリートとして望ましくない値: >80

γ-GTPは、肝臓での解毒作用に深く関わる酵素です。
肝機能の低下、脂肪肝、アルコール摂取、一部の薬剤などによって増加します。

ALP

一般的基準値:38~113(U/L)
アスリートとして望ましくない値: <40、 >100

ALPは、とくに肝臓、骨、小腸、胎盤などに多く含まれている酵素です。
骨折などの骨の病気、成長期などで増加します。
また、低栄養、甲状腺機能低下症などで低下します。

クレアチニン

一般的基準値:男性 0.66~1.11、女性 0.5~0.86(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: Cr*100<体重kg

クレアチニンは、筋肉を動かすエネルギーを使った後に出てくる老廃物の成分です。

通常は腎機能の指標ですが、アスリートの場合は筋肉量が反映されるため、腎機能を正しく評価することは難しいです。
「シスタチンC」「尿検査(尿蛋白・尿潜血・尿ケトン体・尿比重など)」「尿素窒素」などを用いて総合的に腎臓の機能を評価することになります。

肉体へのダメージ

血液検査によって「肉体へのダメージ」を評価することができます。

CRP

一般的基準値:0.3以下(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >0.5

CRPは、体の中で炎症反応が起こるときに上昇します。

アスリートの場合、トレーニングによる筋肉の炎症を反映して上昇します。
CRPが高い場合、オーバートレーニング、リカバリー不足、風邪などの感染症の可能性があります。

CK

一般的基準値:男性 50~220(U/L)女性 40~170(U/L)
アスリートとして望ましくない値: 運動後6時間>250

CK(クレアチンキナーゼ)は、筋肉の細胞に多く含まれている酵素であり、筋肉にダメージを受けると上昇します。

アスリートの場合、トレーニングによって「CK」は上昇します。
しかし、運動後6時間経っても「CK」が高値のままの場合は、リカバリーがうまくいっていない可能性があります。

LDH

一般的基準値:120~245(U/L)
アスリートとして望ましくない値: >250(溶血)

LDHは、エネルギー代謝に関係する酵素であり、肝臓に多く含まれており、他にも赤血球、心臓、筋肉、骨などに存在します。

アスリートの場合、筋肉量が多い場合や、溶血(足裏への衝撃やアシドーシスなど)によって「LDH」は上昇します。

尿酸(UA)

一般的基準値:2.0~7.0(mg/dl)
アスリートとして望ましくない値: >体重/10

通常は、食事でプリン体の過剰摂取によって増加する。
アスリートの場合、筋肉のダメージや利尿剤(ラシックス)の使用などによって上昇します。
なお、赤血球には核は存在しないため、溶血では尿酸値は上昇しません。

月経に関するホルモン

エストラジオール

一般的基準値:15~350(卵胞期)、100~400(排卵期)、50~250(黄体期)(pg/ml)
アスリートとして望ましくない値: <20

エストラジオールは、卵巣から分泌される女性ホルモンであり、月経が規則的な人は、周期的な変化をします。
エストラジオールが低いと、骨粗しょう症、疲労骨折のリスクが高まります。

FSH

一般的基準値:3.0~10.2(mIU/ml)
アスリートとして望ましくない値: <3.0

FSHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンであり、卵胞の成熟を促し、「エストラジオール」の合成を促進します。
FSHが低い場合は、排卵が出来ないくらい「エネルギー不足」の可能性が高く、無月経にもなります。(視床下部性無月経)

LH

一般的基準値:1.4~7.4(mIU/ml)
アスリートとして望ましくない値: <1.5

LHは、脳の下垂体から分泌されるホルモンであり、「排卵」や「黄体形成」を促します。
LHが低い場合は、「エネルギー不足」の可能性が高く、FSH低値とともに無月経になります。(視床下部性無月経)

男性ホルモン

テストステロン

一般的基準値:男性 250~850女性 9~56(pg/ml)
アスリートとして望ましくない値: 男性<250女性<20

テストステロンは、男性ホルモンであり、男性の場合は主に精巣で作られます。
男性よりも少ないですが、女性の場合も、副腎や卵巣で作られます。
テストステロンが低いと、「エネルギー不足」によってホルモンを作ることができない状態と判断されます。

甲状腺ホルモン

f-T3

一般的基準値:2.5~4.1 (pg/ml)
アスリートとして望ましくない値: <2.5、>4.1

f-T4

一般的基準値:0.75~1.45 (ng/dl)
アスリートとして望ましくない値: <0.75、>1.45

TSH

一般的基準値:0.61~4.23 (mIU/ml)
アスリートとして望ましくない値: <0.61、>4.23

甲状腺ホルモンは、体内の代謝を促進する働きがあります。
甲状腺の働きに異常が起こると、そのバランスが崩れ、様々な症状を起こします。

T3、T4が低く、TSHが高い場合は「甲状腺機能低下症」
T3、T4が高く、TSHが低い場合は「甲状腺機能亢進症」が疑われます。

まとめ

今回は「ランナーが見るべき血液検査」について説明しました。

マラソン競技においてトレーニングだけでなく、ご自身の体の状態を知ることも、とても重要です。
定期的に血液検査を行って、ご自身の状態を把握し、競技パフォーマンスを高める手助けになれば幸いです。

この記事によって「ランナーが見るべき血液検査」についての理解が深まり、一人でも多くの人に役立つことを願っています。

この記事の著者

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